ベテランに変化を求める難しさ——久しぶりに新人を迎えた会社で起きていること


※この記事は、社員の育成や定着に関わっている経営者・人事担当者の方に向けた記事です。

「ベテランに変わってほしい」という相談

新人が定着しない。原因を探っていくと、長く勤めたベテラン社員の新人への接し方に行き着く。ベテラン社員に、新人の育て方や関わり方を学ぶ研修を受けてもらえば変わるのではないか。こうしたご相談は、地域の中小企業に限らず、決して珍しいものではありません。

厚生労働省の令和6年度「能力開発基本調査」では、人材育成に何らかの問題があると答えた事業所が79.9%にのぼります。問題があると答えた事業所のうち、内訳で最も多いのが「指導する人材が不足している」で59.5%、次いで「人材を育成しても辞めてしまう」が54.7%でした(※1)。教える側が足りず、育てても残らない。多くの会社が、この二つを同時に抱えています。

ただ、ここで一つ立ち止まって考えたいことがあります。難しさの正体は、本当にベテラン社員の側にあるのでしょうか。

仕事は回ってきた。人を育てて残すことは、まだ試されていない

長く勤めた社員が中心の会社には、共通した歩みがあります。同じ顔ぶれで、何十年も仕事を回してきた。受注があり、分担し、納品し、また次の受注が来る。この流れは、何千回と繰り返されてきた実績です。

一方で、人が入り、育ち、任され、やがて次の人を育てる。この流れは、同じ顔ぶれが続いた会社では、ほとんど動いたことがありません。新人が久しぶりに入ったとき、会社はこの二つ目の流れを、初めて本番で動かすことになります。

つまり「うちはこれで回ってきた」という実感は事実ですが、それは仕事の話です。人を育てて残す経験は、まだ積まれていない。間違っていたのではなく、初めての局面に来ている。そう捉えると、見え方が変わってきます。

初めての局面では、いくつかのことが起きやすくなります。技術の水準が高い会社ほど、ベテランの持つ力と新人の力量の差は大きく、その間をつなぐ段階が言葉になっていないことが多いようです。三か月で何ができればよいのか、一年で何を任されるのか。新人の側からは、誰が自分の成長を見ているのかが見えにくい状態になりがちです。

自分の仕事と、人を育てることでは、採点表が違う

それでも、ベテランに育成の役割を担ってほしいと考えるのは自然なことです。では、なぜそれが難しいのか。

ベテラン社員は、二十年以上にわたって、自分の仕事の出来で評価されてきました。精度、納期、顧客からの信頼。速くて、自分で制御できて、目に見える基準です。長く働くほど、この採点表は体に染みついています。

人を育てることの成果は、まったく別の性質を持っています。結果が出るのは遅く、間接的で、自分の手の届かないところで決まります。しかも育成がうまくいくということは、相手が自分を必要としなくなることでもあります。長年「この人がいないと困る」という立場で会社を支えてきた人にとって、育成の成功は、自分の足元を削ることと区別がつきにくいのです。

変化を嫌っているように見える姿は、こうした構造の中で、自分の知っている唯一の採点表を守ろうとしている姿とも読めます。頑固さでも、意欲の問題でもなく、二つ目の採点表がまだ会社の中に用意されていないことの表れかもしれません。

ベテラン向けの育成研修と、キャリアコンサルタントの面談は、何が違うのか

ここで言う研修とは、新人の育て方や関わり方を学んでもらうために、会社がベテラン社員に受けさせる育成研修のことです。この育成研修と、外部のキャリアコンサルタントがベテラン社員一人ひとりと行う面談は、同じ人を対象にしていても、性質がかなり違います。

育成研修は、会社がベテラン社員に受けさせるものです。その主題は、どうしても「あなたに変わってほしい」になります。二つ目の採点表を持たない人にとって、これは自分の足元を削れという要請に聞こえかねません。出張や納期を理由に参加が難しくなるのは、意識が低いからではなく、防御として自然な反応と考えられます。

キャリアコンサルタントの面談は、主題が違います。面談で最初に聞くのは、今どんな仕事をしているか、その仕事で何を大事にしているか、そしてその力をどうやって身につけてきたか、です。変わってほしいという言葉は、どこにも含まれていません。

自分の学び方を語る中で、自分にも教えてくれた人がいたこと、その人が立場を失ったわけではないことを、本人が思い出す場面があります。育成の話は、ここから開いていくことが多いのです。求められて始まる変化ではなく、本人が自分の仕事の延長として見つける変化です。

二つを並べると、次のようになります。

項目 ベテラン向けの育成研修 キャリアコンサルタントの面談
主題 新人の育て方、関わり方を学ぶ 本人の今の仕事と、これから
受ける側に届く言葉 あなたに変わってほしい あなたの仕事について聞かせてほしい
育成の話への入り方 最初から育成が主題 本人の学び方を語る中から開く
形式 集合形式、会社が受講者を決める 一対一、受けてもよいという人から
会社への還元 受講の記録、研修の内容 個人が特定されない形での傾向

どちらかが正しいという話ではありません。役割が違うのです。新人の育て方や関わり方そのものは、育成研修で学ぶのが向いています。一方で、学んだことを自分の仕事に引き寄せ、自分がやる意味に納得するところは、研修の中では起きにくく、面談のほうが向いています。

だから、組み合わせ方に工夫の余地があります。育成研修の前に一度、キャリアコンサルタントが本人の仕事とこれからを聞く。本人は、自分なりの問いを持って研修に臨めます。研修が終わったあとにもう一度、学んだことを自分の仕事のどこに置くかを、本人の言葉で話してもらう。研修で得た学びが、会社に言われたことから、自分で選んだことに変わるのは、この後の面談であることが多いようです。研修の前後にキャリア面談を置く、という形です。

この面談には、人事や経営者の方にも役割があります。面談を受けたベテラン社員に、自分から声をかけて、その人の仕事の話を聞いてみることです。面談で何を話したかを尋ねるのではなく、今どんな案件を抱えているか、何に手を焼いているか、といった普段の仕事の話で構いません。これまで研修を受けさせる側だった人事や経営者が、直接話を聞く側になる。会社が自分の仕事に関心を持っている、とベテラン社員に伝わること自体が、二つ目の採点表を作り始めた合図になります。会社が動く最初の一手は、制度を変えることよりも、まずここにあると考えています。

なお、この面談は転職を促すものではありません。面談の内容は守秘義務のもとで扱われ、会社へは個人が特定されない形でのみ還元されます。

見て覚えるやり方で回っている会社もある

公平に言えば、見て覚えるというやり方が今も機能している会社は、実際にあります。教える側が背中で示し、覚える側がそれを読み取る。この関係が成立している職場に、外部の面談は必要ないかもしれません。

ただ、一つだけ確かめておきたいことがあります。これまでに定着せず辞めていった新人が、なぜ辞めたのか。その理由が会社に見えているかどうかです。辞めていく新人の多くは、本当の理由を言わずに去ります。残った新人だけを見て「うちに合う人が残った」と考えるのは自然ですが、辞めた新人の側に見えていない理由があったかもしれない、という余地は残しておいてよいと思います。

まず、一人の話を聞くところから

ベテランに変化を求める難しさは、人の問題というより、会社が初めての局面に来ていることの表れだと考えています。育成研修が悪いわけではありません。研修で新人の育て方を学び、その前後のキャリア面談で、学んだことを自分の仕事に引き寄せて納得する。変わってほしいと伝えるだけで終わらせず、この組み合わせを一度考えてみていただければと思います。

備後キャリア・ラボでは、ベテラン社員や若手社員との個別面談を、少人数から始められる形でお引き受けしています。すでに予定している育成研修の前後に組み合わせる形でも構いません。面談を受けてもよいという方だけを対象に、一人から始めることもできます。自社の状況を一度整理してみたい段階でも構いませんので、よろしければ企業向けのご案内をご覧ください。

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