社員は、この会社に魅力を感じてくれているだろうか——研修の次に打てる一手


※この記事は、社員の育成や定着に関わっている経営者・人事担当者の方に向けた記事です。

会社の魅力は、本当に社員に届いているだろうか

「毎年研修には投資しているのに、現場の行動が変わった実感が持てない」
「1on1面談をやっても、表面的な会話や『特にありません』で終わってしまう」

人材育成や定着に関わる経営者・人事担当者の方から、こうしたご相談をよくいただきます。

地域の企業を訪ねると、確かな技術があり、丁寧な仕事があり、長く勤めている人がいる——外から見れば十分に魅力のある会社がたくさんあります。しかし、その魅力が社員自身にどう届いているかを確かめたことがある会社は、多くありません。

企業理念は掲げてある。待遇も同業他社と比べて悪くない。研修にも取り組んでいる。それでも「社員がそれをどう受け取っているか」は、聞いてみないと分からないものです。そして多くの場合、確かめる機会がないまま時間が過ぎていきます。

研修を「実施した」ことと、組織が「変わった」ことは別

近年、生成AIやDX、階層別研修などに取り組む企業が増えています。取り組み自体は前向きな一手ですが、研修という形式には構造上の特徴があります。

研修は「会社が社員に受けさせるもの」です。外から講師を呼んで知識を届けても、受け取る側に「自分はこの会社で何をしたいのか」「この学びは自分の仕事にどう関わるのか」という自発的な問いがなければ、知識は素通りしてしまいがちです。これは担当者の力量や社員の意欲の問題ではなく、研修だけで完結させようとすると起きやすい構造上の問題です。

順序を変えると、同じ研修でも受け取られ方が変わります。

社員一人ひとりが「自分はこの会社で、これから何をしていきたいのか」を考える場を、研修の前に置いておく。その土台があると、新たな学びや研修も「会社にやらされるもの」から「自分の仕事を変える道具」へと変わっていきます。

若い世代が職場に求めている「キャリアの描きやすさ」

個人向けのキャリア相談や地域の若者の話を聞く中で、繰り返し出てくる傾向があります。

  • 「この会社で働き続けたら、自分にどんな力が身につくのかが見えない」
  • 「困ったときに素直に相談できる相手が、職場にいるのか分からない」
  • 「給与の額そのものより、これから先どんなキャリアを描けるかの見通しが持てない」

どれも「今の待遇に不満がある」という話ではありません。若手が求めているのは、今後の評価や待遇の基準に納得感が持てること、職場で自分の成長が実感できること、そして困ったときに素直に相談できる関係があることです。

会社側は「きちんとした制度や良い環境を用意している」と考えている。しかし、社員側は「それが自分の将来にどう繋がるのかイメージできない」。どちらも間違っていません。この認識のギャップは、お互いの推測だけでは埋まりにくいものです。

なぜ、社内の面談では「本音」が見えにくいのか?

そのギャップを埋め、「社員が自社の魅力と自身のキャリアを重ねて言葉にする機会」を用意する仕組みが、セルフ・キャリアドックです。

セルフ・キャリアドックとは、年齢や昇進などの節目にキャリアコンサルティング面談や研修を行い、従業員の主体的なキャリア形成を支援する厚生労働省推奨の仕組みです(※1)。

人事担当者の方からよくいただくのが、「うちでも社内面談(1on1)をやっているが、なぜ外部の面談が必要なのか?」という疑問です。

上司との面談では、社員はどうしても「評価」を意識します。「弱音を吐けば評価に響くかもしれない」「異動希望を口にすると気まずい」と感じるのは自然なことです。評価する側とされる側という関係がある以上、社内だけでは拾いにくい本音が存在します。

項目 社内面談(上司・人事) セルフ・キャリアドック(第三者面談)
主な目的 業務進捗・目標管理・人事評価 これまでの歩みの棚卸しと将来の描画
心理的安全性 評価を意識し、本音や悩みを出しにくい 守秘義務のもと、素直な違和感や本音を話せる
組織への還元 個人の評価・指導にとどまりやすい 匿名化・傾向化して「組織の課題」として経営にフィードバックできる

評価ラインから切り離された社外のキャリアコンサルタントが話を聞くことで、「本当はこんな仕事に挑戦したい」「資格取得がどう評価されるか分からず不安」といった声が浮かび上がります。

※なお、この面談は転職を促すものではありません。社員が自社でのキャリアを主体的に捉え直す場であり、個別の面談内容は守秘義務により厳重に保護され、会社へは個人が特定されない「集計・傾向」としてのみ還元されます。

事例:面談の声が、組織の仕組みを動かした(厚労省 事例集より)

第三者面談で出てきた声を受け止め、組織の改善につなげた企業の例をご紹介します。

事例1:株式会社北海道ダイケン(ビルメンテナンス業 / 530名)

  • 背景と課題: 管理責任者27名を対象にセルフ・キャリアドックを導入。
  • 面談で判明した本音: 当初懸念された不満ではなく、「より良い現場をつくりたい」という意欲を持ちながら「どう行動に移せばよいか分からない」という悩みが判明。
  • 会社のアクション: 外部専門家の力を借りながら、評価・処遇・資格取得支援などの制度面の整備に着手(※2)。

事例2:株式会社ユーミック(金属製品製造業 / 56名)

  • 背景と課題: 社内の「カイゼン事務局」を構成するリーダー層10名を対象に実施。
  • 面談で判明した本音: 面談を通じて「会社から必要とされていること」に気づき、仕事へのやりがいを再確認。
  • 会社のアクション: 全社員がキャリアの相談ができる窓口と組織を社内に新設(※3)。

規模も業種も異なりますが、共通しているのは「面談で見えてきた現場の声を会社が受け止め、仕組みの改善につなげた」点です。

成功の鍵は「小さく始めて、一つ動かす」こと

セルフ・キャリアドックは、単に導入すれば自動的に成果が出る魔法の箱ではありません。面談窓口を作っただけで終わらせてしまうと、「話しても何も変わらない」と社員に受け取られてしまうリスクもあります。

成果を生むかどうかを分けるポイントは、「面談で見えてきた傾向に対して、会社が何か一つでも動くかどうか」です。

だからこそ、最初から全社一斉に導入する必要はありません。

  • 入社3年目までの若手
  • 新任管理職
  • ミドルシニア層

このように対象を絞って小さくスタートし、見えてきた課題に対して「小さくても確実な改善」を行い、それを社員に伝える。この循環を回すことこそが、最も確実なステップです。

御社の強みを、社員に伝わる形にする

「御社を根底から変えなければ人は集まらない・定着しない」ということではありません。地域の企業には、積み重ねてきた確かな強みや魅力がすでにあります。

ただ、それが「社員に伝わる形になっているか」、そして「社員の側にそれを受け止める言葉があるか」は別のアプローチが必要です。

一度、貴社の中でも問いかけてみてください。

「うちの社員は、自分のキャリアをこの会社の将来と重ねて語れるだろうか」

もし少しでも迷いを感じられたなら、それは社員の素直な声に耳を傾けてみる絶好のタイミングかもしれません。

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