「やりたいことが見つからない」まま、動き出していい——キャリアの偶然を味方につける5つの行動
※この記事は、就職活動中の大学生・専門学校生と、「やりたいことが見つからない」と感じている若手社会人に向けた記事です。
「やりたいことを決めてから動く」が、動けない理由になっている
就職活動が始まると、あらゆる場面で同じことを聞かれます。
「あなたのやりたいことは何ですか」
自己分析シート、エントリーシート、面接。どれも、やりたいことがすでに決まっている前提で作られています。だから真面目な人ほど、答えが固まるまで動けなくなります。説明会にも行かない、OB訪問もしない。まず自分の中の答えを見つけてから、と。
そして探しても見つからず、「自分には何もない」と感じ始める。
順番を疑ってみる価値があります。やりたいことを決めてから動くのではなく、動いた結果としてやりたいことが見えてくる——キャリア理論の世界では、こちらの順番を支持する考え方が四半世紀前から提唱されています。
クランボルツが言ったこと
スタンフォード大学で教育学と心理学を教えたジョン・D・クランボルツ教授らが1999年の論文で提唱したのが、「計画された偶発性(Planned Happenstance)」です※1。
論文の問題提起はシンプルです。キャリアカウンセリングは長らく、意思決定から偶然を取り除くための営みだと考えられてきました。しかし実際には、偶然は誰のキャリアにも大きく関わっています。ならば偶然を排除するのではなく、偶然を学びの機会に変える力のほうを扱うべきではないか——というのが論文の立場です。
論文には、実際にどれくらいの人がそう感じているかを調べた研究も紹介されています。たとえば中高年層237人を対象とした1996年の調査では、男性の63%・女性の57%が、自分のキャリアは偶然の出来事に影響されたと答えました※2。割合は調査によって幅があり、論文自身も、この種の数字は調査対象の集め方や設問の言い回しによって大きく変わると注意を促しています。それでも、偶然が一部の人にだけ起きる例外ではないという方向は共通しています。
偶然任せでいい、という話ではない
ここが誤解されやすいところです。この理論は「流れに身を任せよう」とは言っていません。論文は、人が計画して行動することもキャリアに影響すると明記したうえで、偶然が起きる確率を自分で上げ、起きたときに掴める状態にしておくことを主張しています。
そのために必要な力として、論文は5つを挙げています※1。
- 好奇心 — 新しい学びの機会を探しにいく
- 持続性 — うまくいかないことがあっても努力を続ける
- 柔軟性 — 考え方も、置かれた状況も、固定したものと思わない
- 楽観性 — 新しい機会を「実現できるもの」として見る
- 冒険心 — 結果が読めない状況でも動いてみる
言葉だけ見ると精神論に見えますが、論文が挙げている具体的な行動はもっと地味です。興味に少しでも関係のある場所に足を運ぶ、関連する講座を受ける、手紙やメールを出す、人に会って話を聞く。そういう行動の積み重ねが、予定外の出会いや情報が入ってくる確率を上げる、という組み立てです。
就活の場面に置き換えると
具体的には、こういう形になります。
- 志望業界を一つに絞りきる前に、関係が薄そうに見える会社の説明会に一つだけ出てみる
- OB・OG訪問の相手を「志望企業の人」ではなく「面白そうな仕事をしている人」に広げてみる
- インターンを「選考に有利だから」ではなく「やってみないと分からないことを確かめるため」に使う
- 落ちた会社の面接で言われたことを、そのままメモに残しておく
どれも「やりたいことが決まっていなくてもできる」行動です。逆に言えば、やりたいことが決まるまで待っている間に起きたかもしれない出会いは、確かめられないまま過ぎていきます。
この考え方の弱点も、書いておきます
一方で、この理論をそのまま受け取るときに注意したい点があります。
偶然を取りにいくには、土台が要ります。 時間、交通費、そして失敗しても生活が壊れないという安心感。奨学金の返済を抱えている人、家庭の事情がある人、体調に波がある人が、同じだけリスクを取れるとは限りません。だから「冒険心を持とう」は、全員に同じ量を求める話ではありません。自分の土台に合わせて幅を決めて構いません。
広げ続けると疲れます。 「なんでもやってみよう」は、期限を切らないと消耗につながります。たとえば学期ごとに「新しく会って話を聞く人は3人まで」のように上限を決めておくくらいで、ちょうどいいと考えられます。
後から振り返ると、きれいな物語に見えてしまいます。 偶然を活かせた人の話は、たいてい成功した後に語られます。同じように動いて何も起きなかった人の話は、表に出にくい。うまくいった人の語りだけを見て「自分にも同じことが起きるはずだ」と考えると、見誤ります。
備後地域で就職を考える人にとって、どう効くか
偶然の起きやすさには、「数」と「近さ」という2つの面がありそうです。
都市部は、単純に母数が大きいと考えられます。企業の数、イベントの数、そこにいる人の数が多く、偶然の総量は増えやすい。
一方で地方には、紹介が連鎖しやすいという面があります。一人に会って話を聞くと、その場で「それなら、あの人に聞くといい」と別の人の名前が出てくる。会いに行った二人目が、また別の誰かにつないでくれる。三人目に会う頃には、最初に自分が想定していた業界とは違う場所にたどり着いていた——ということが起こります。まさに、予定外の出来事が入ってくる経路です。
備後地域では、企業どうし・経営者どうしの距離も近いと言われます。商工会議所や業界の集まり、地域の行事で顔を合わせている人が多く、一つの縁が思わぬ方向に伸びることがあります。この連鎖が効くのは、「〇〇さんの紹介で」の一言が、初対面の壁をほとんど無くしてしまうからです。都市部で同じことをしようとすると、毎回、自分が何者かを説明するところから始めることになりがちです。
就活でこれを使うなら、入り口の言い方が効いてきます。「御社に入りたいので話を聞かせてください」と言うと、話は選考の枠に入ってしまいます。「この仕事のことを教えてください」と入るほうが、相手も気軽に次の人を紹介しやすいと考えられます。
もっとも、この近さは裏返しでもあります。狭いということは、良くない評判も同じ速さで伝わるということです。そして、最初の一人に出会うまでが地方では大変なこともあります。連鎖は、始まってしまえば早い。始めるところがいちばん難しい、というのが実際のところです。
どちらが有利かは、断定できません。目指す業界や職種によっても、人によっても変わります。
ただ、確かめようがある部分もあります。「地元には何もない」と感じたとき、それが本当に地元の条件によるものなのか、まだ試していないだけなのかは、自分が動いた回数を思い出してみないと分けられません。動かなかったことを責めたいのではなく、判断の材料が足りないまま結論を出してしまうことは誰にでもある、という話です。
最後に、4つの問い
論文は、キャリアカウンセラーが相談者に投げかける問いとして、次の4つを挙げています※1。自分に向けても使えます。
- 「こんな偶然が起きたらいいのに」と思うことは何ですか
- それが起きる可能性を上げるために、いま何ができますか
- 動いたとしたら、あなたの生活はどう変わりますか
- 何もしなかったとしたら、どう変わりますか
4つ目まで並べているところが、この理論らしいと思います。動くことにも、動かないことにも、それぞれの結果があります。
備後キャリア・ラボでは、こうした問いを一緒に整理する場を用意しています。やりたいことが決まっていない段階からで構いません。詳しくは個人の方へのページをご覧ください。
出典
- ※1 「計画された偶発性」理論の原典。本文中の5つの力の定義、4つの問い、調査手法についての注意喚起、「計画も偶然も両方が影響する」という整理、偶然を生む具体的行動の列挙は、いずれもこの論文によります:Mitchell, K. E., Levin, A. S., & Krumboltz, J. D. (1999). Planned Happenstance: Constructing Unexpected Career Opportunities. Journal of Counseling & Development, 77(2), 115–124.
- ※2 中高年層237人への調査(男性63%・女性57%):Betsworth, D. G., & Hansen, J-I. C. (1996). The Categorization of Serendipitous Career Development Events. Journal of Career Assessment, 4(1), 91–98.
- 参考図書(日本語):J.D.クランボルツ、A.S.レヴィン著、花田光世・大木紀子・宮地夕紀子訳『その幸運は偶然ではないんです!——夢の仕事をつかむ心の練習問題』ダイヤモンド社、2005年
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「正解を先に決めてから動く」という発想がどこから来ているのかを、高校までの勉強のルールにさかのぼって書いた記事があります。